この記事は個人ブログと同じ内容です
はじめに
私は高校から男子新体操を始め、現在も社会人チームで競技を続けています。
男子新体操は、毎年ゼロから新しい演技を創り上げていく競技です。そこには「完成形の正解」がなく、アイデアを出し合い、実際に試してみて、フィードバックをもとに少しずつ形にしていくプロセスがあります。
ふと気づいたのは、この演技づくりのプロセスが、ソフトウェア開発の「スクラム」と非常によく似ているということでした。
本記事では、男子新体操における“演技開発”のプロセスを切り口に、スクラム開発のエッセンスを別の視点から捉え直してみます。普段エンジニアとしてスクラムに取り組んでいる方にも、「あ、そういうことか」と感じていただけるヒントがあれば嬉しいです。
男子新体操における“演技開発”とは?
男子新体操では、毎年ゼロから新しい演技をつくり上げていきます。
まず最初に行うのは、動画や音楽、他のチームの演技などからインスピレーションを得て、「今年はどんな演技にしたいか?」というビジョンをチームで共有することです。
次に、そのビジョンをもとに演技を複数の要素(技、動き、フォーメーションなど)に分解し、「この動きはどうだろう?」とアイデアを出しながら、作りやすい部分から試作を始めます。実際に動いてみることで、頭の中だけでは分からなかった問題点や新しい可能性が見えてくるのです。
そして、試作した動きや構成をチーム内で合わせてみたり、コーチに見せてフィードバックをもらったりしながら、何度も調整と修正を繰り返して完成度を高めていきます。こうしたプロセスを通じて、最終的にひとつの完成された演技に仕上げていきます。
流れとしては、以下のようなステップになります:
- ビジョンの共有 – どんな演技を作りたいかを全員で話し合う
- 構成要素の分解 – 演技を細かい技や動きに分けて考える
- 試作・試行(プロトタイピング) – アイデアを実際に動いて試してみる
- フィードバックと改善 – 仲間やコーチと意見を出し合ってブラッシュアップ
- 全体の統合と仕上げ – すべての要素をつなぎ、ひとつの演技として完成させる
こうして見てみると、男子新体操の演技づくりは、ソフトウェア開発、特に「スクラム開発」のプロセスにとてもよく似ています。段階的に作っては改善し、チームで協力して完成形を目指していく。その姿勢に強い共通点を感じています。
スクラム開発とは?
スクラムは、ソフトウェア開発などでよく使われる「アジャイル開発」の一手法です。不確実性の高いプロジェクトにおいて、短いサイクルで計画・開発・振り返りを繰り返すことで、柔軟かつ効率的に価値を届けていくことを目指します。
スクラムでは、開発のサイクルを「スプリント」と呼び、1〜4週間程度の短い期間を区切って進めていきます。各スプリントでは以下のような流れがあります:
スプリントプランニング:スプリントで何を作るかをチーム全員で話し合い、ゴールを決める
開発作業:小さなタスクに分けた成果物をチームで協力して作っていく
デイリースクラム:毎日15分程度、進捗や課題を共有する
スプリントレビュー:スプリントの成果を関係者に見せて、フィードバックをもらう
スプリントレトロスペクティブ:プロセスの振り返りをして、次のスプリントに向けて改善する
このようにスクラムは、チームが自律的に動きながら、試行錯誤を通じて成長し続けることに重きを置いています。
男子新体操とスクラムの“似て非なる点”
演技づくりとスクラム開発は、驚くほど似た部分があります。
✅ 似ている点
- 小さく作る:一気に作らず、演技を要素ごとに分けて段階的に構築
- 反復的な改善:実演 → フィードバック → 修正を繰り返す
ただしこう言った違うところもあります。
❌ 異なる点
つまり、男子新体操は"なんとなくスクラム"っぽく動いてはいるものの、仕組みとして意識的に運用しているわけではない、という状態です。
もし男子新体操をスクラムっぽくやったら?
男子新体操の演技づくりに、スクラムの考え方を意識的に取り入れると、次のようなスタイルになるかもしれません。
スプリントで演技を作っていく
例えば、3週間を1スプリントとして区切り、スプリントごとに以下のような流れで演技を開発していきます。
スプリントプランニング
最初に「このスプリントでは前半の流れを完成させよう」といったゴールを設定。完成基準や練習回数の目安も話し合う。
日々の練習(デイリースクラム的)
毎回の練習の最初や最後に、各メンバーが「今日はここまでできた」「この動きが難しい」と共有し合い、次の方針を調整。スプリントレビュー(確認演技)
スプリントの最後には、完成したパートをチーム内やコーチの前で披露し、フィードバックを受ける。「ここはテンポが合っていない」「この構成は見栄えがする」といった意見を得て、次の改善に活かす。スプリントレトロスペクティブ(振り返り)
練習方法やチーム内の連携に関して、「もっと早く仮バージョンを作った方がよかった」「個人練習の時間配分を変えてみよう」といった反省と改善案を出し合う。
“見せられる演技”をこまめに作る
最終的な完成を待つのではなく、「ここまでの流れだけでも一旦まとめて、外に見せてみる」ことを重視します。例えば、大会2か月前の時点で、冒頭30秒の演技がある程度形になっていることで、演技全体のトーンや方向性を周囲に伝えやすくなります。これは、ソフトウェア開発における「インクリメンタルデリバリー(少しずつ完成させる)」の考えに近いです。
メンバーの役割分担も明確に
スクラムには「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「開発チーム」といった役割がありますが、男子新体操でも似たような分担ができます。
- プロダクトオーナー:コーチや監督が「演技の完成イメージ」を明確にする役割
- スクラムマスター:進行役として、練習スケジュールや振り返りの場を整える役割
- 開発チーム:実際に動きを作り、調整・完成に向けて取り組む選手たち
このように、男子新体操にスクラムを当てはめることで、より計画的・フィードバック駆動型の演技開発が可能になるかもしれません。
終わりに
男子新体操の演技づくりと、ソフトウェア開発におけるスクラム。
まったく異なる世界に思えるこの2つですが、実際に比べてみると、どちらも「完成形が見えない中で、チームで試行錯誤を重ねながら前に進む」という点において強く共通していると実感しました。
演技を分解して、小さなパーツから作り、フィードバックをもとに改善し続ける。その過程はまさに、スクラムのスプリントを繰り返してプロダクトを磨いていく開発の流れと同じです。
もちろん、男子新体操にはスクラムのようなフレームワークは存在しませんが、逆に言えば「自然とスクラム的に動いていた」部分が多く、両者が共通する“本質”を感じ取ることができました。
今回の記事を通じて、「全く別の領域に見えても、プロセスや価値観は共通している」という視点を持つことで、ソフトウェア開発の理解がより深まる――そんな気づきが、読者の皆さんにも届いていれば幸いです。